ここに来るのは、どれくらいぶりだろう? 一人、公園のベンチに座ってそんなことを考える。 初めて訪れたのは、もう十年も前のこと。 幼かった僕が、一人でジュエルシードを集めようとしていた頃。 傷ついた僕を、助けてくれて。 力を貸してくれて。 優しくて、まっすぐな心を持った女の子───なのはに出逢った。 聞こえる波音が記憶を消していくようで。 固く、目をつぶった。 自分の想いに気がついたのはいつだっただろうか。 それは今となっては曖昧で、不確かだけれど。 気付いたときから、ずっと大きくなるばかりで。 「どうしたの、ユーノくん?」 思考に沈んでいた僕を、なのはが不思議そうに覗き込んでいた。 「あ、いや・・・なんでもないよ」 慌てて手を振って、誤魔化す。 そう、今はなのはと二人きり。 その、はずだったのに。 ♪〜♪〜 携帯電話の着信。 なのはのお気に入りのその曲は、彼女からのもので。 二人きりの時間の、終わりを告げる音。 なのはを見れば、その顔も、その声も。 とても嬉しそうで、柔らかくて、優しい。 それは、彼女だけに向けるもので。 決して、僕には向かないもの。 わかっているのに。 締め付けるような息苦しさに、大きく息を吐いた。 フェイトは、いい子だから。 なのはを守れる力があるし、なにより大切にしているから。 なのはが、大好きだから。 わかっているのに。 「ユーノくん」 その先は、言わないで 僕の手の届かない場所に、行かないで そんなこと、言えるわけもなくて。 僕は笑顔を作って頷く。 ちゃんと、笑えてるよね。 「うん、いってらっしゃい」 なのはは、くすぐったそうに笑って。 「いってきます!」 桜色の軌跡が少しだけ残って、消えた。 なのはが笑っていればそれでいい。 僕の幸せは、君といたあの頃にあるから。 二人で肩を濡らした雨の日。 繋いだ手の温もり。 ずっと続けばいいのにと思っていたあの頃。 君といた日々は、蜃気楼のように。 揺らいで、消える。 すべて思い出になってしまったから。 それでも、僕は。 君を想っているから。 目を開ければ、あの頃と変わらない海と空。 大好きなあの子のような、深い蒼。 それに、少しだけ微笑んで。 座っていたベンチを、後にした。 告げることのない想いを、そっと胸にしまって。 <fin>