「ごめん・・・私には好きな人がいるから」


 そう告げて彼女の顔を見れば、溢れそうな雫を湛えた瞳と目が合って。

 まるで。

 今の空みたいだ、と思った。





「まだ、追いつけるかな・・・」

 とん、とつま先を鳴らして、呟く。

 今日は、仕事の入っていない日。

 なのはもそうだと言っていたから、一緒に帰るつもりだったのだけど。

 昼休みに声を掛けられて。

 放課後の行き先は、屋上になってしまった。

 誘いを断ってしまったなのはにも。

 想いを断ったあの子にも。

 なんとも言えない罪悪感は、身体に圧し掛かってくるようだった。

 少しの間ぼんやりとしていた思考を引き戻したのは、降り始めた雨音。

 泣き出した空を見ていたら、何故か。

 足は、強く地面を蹴っていた。



 走り始めて、しばらく。

 雨で煙る視界に、見慣れた亜麻色。

 僅かに息を呑んで、声を掛ける。

「なのは?何して・・・!?」

 色の変わった制服が、なのはがそこにいたのが数分でないことを示している。

 目を丸くしていると、なのははキョトンとした顔で見上げている。

 いつからいたの?

 こんなところで、なにしてるの?

 こんなに、濡れるまで。

 次々に出かかる言葉を、ぐっと飲み込んで。

 その手を引いた。



「何か温かいもの持ってくるから、着替えてね」

 そういって着替えを渡して。

 私は部屋を出る。

 濡れた制服は乾燥機の中。

 なのはの白くて綺麗な肌をこれ以上見ていたら、どうにかなってしまいそうだった。

 いつから、だろう?

 なのはのことを、こんな風に思うようになったのは。

 ミルクを火にかけながら、なのはと繋いでいた右手を見つめた。

 小さな頃からよく繋いでいたなのはの温かい手。

 今日はその温もりは僅かで。

 ただ、細くて、繊細で。

 泣きたくなるほど。

 愛しい。

 大切にしたい。

 何よりも、誰よりも。

 その手の温かさは、その手の柔らかさは。

 安心するのに。

 胸が、苦しい。

 どうしよう。

 私、恋してる。

 どうしようもないほど、なのはに。

 一緒に帰れないだけで、こんなにも寂しかった。

 なのは以外の誰かを選ぶなんて、考えたくもなかった。

 側にいても離れていても、考えるのはなのはのことだけで。

 思うだけで、こんなにも苦しくて、切ない。

「もう、隠せないよ───なのは」

 それを聞いて欲しい相手は、ただ、一人だけ。



                 <fin>











 夏樹お姉様がっ! 稀凛に素敵なものをくれました!←
 以前、お姉様がご自身のところで掲載されてたものの、いわゆる続編です。
 と言うか、フェイト視点、かな?
 もうね、やっぱさ、片想いだけど両想い最高!!!
 片想いだけど両想いは正義!!!!!!!!!!!
 ちなみに、なのは視点はこちらです。
 素敵な片想いSS、ありがとうございます!
 早く部屋に戻ってくっついちまえ!←
        神無月稀凛